野枝さん、しかしなおこの国は、この通りだ

ついさきごろ、福岡市の今宿を訪ねた。「炎の女」と評され、関東大震災のどさくさに官憲に殺められた伊藤野枝が生まれ育った地。今津湾に面して、波音が寄せる。路地を歩けば「伊藤」姓の表札をところどころに見かける。野枝さんの呼吸をいまに感じとるようで、胸がさわぐ。
(野枝さん、しかしなおこの国は、この通りだ)
生涯、野枝さんがたたかった体制の中心に鎮座する九重の、御簾のうちにお育ちの若い方が、ご自身の意思を貫かれる姿にまばゆい感銘と共感をおぼえる。
でもその若い方はこの国では生きることは叶わぬと(すなわちこのままでは殺されてしまうと)、国を離れるという。意思を持つ人間をすべからく圧殺していくこの国と、それを加速させる少数者。知らぬ顔で加担する多数者。
(野枝さん、しかしなおこの国は、この通りだ)
満身に怒り憎しみが湧きたつのをむりやり吞み込んで、今宿の海鳴りを聴く。
日本国憲法第二十四条「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」する。
劣勢だとか、広がりを欠くとか、伸び悩んでいるとか。独自のたたかいをしているなどと微妙な言い回しで表現されるもの。そういうものたちの背中を押して、一緒に歩いていきたい。
(野枝さん、しかしなおこの国は、この通りだ)

 

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