ウシと岩石隊長と

拝啓
長らくご無沙汰してしまいました。8月10日に書いたものの中で「すっかり暑さが峠を越した」ように感じると書いたのですが、その後の夏の戻りはとても長く、暑苦しく感じました。このところ、福島県浪江町の「希望の牧場」を取材しています。昨日、代表の吉沢正巳さんが福島県記者クラブにて記者会見、その後南相馬警察署へ出頭されました。
(詳細は「希望の牧場」ブログにて:http://fukushima-farmsanctuary.blogzine.jp/
重い荷物を背負った吉沢さんが、南相馬警察署へ出頭していく後姿を撮影しながら、僕は谷川雁の詩を思い浮かべました。「世界をよこせ」。

 
 世界をよこせ  谷川雁
 
 まっかな腫れもののまんなかで
 馬車のかたちをしたうらみはとまる
 桶屋がつくる桶そのままの
 おそろしい価値をよこせ 涙をよこせ
 なめくじに走るひとしずくの音符も
 やさしい畝も食べてしまえ
 青空から煉瓦がふるとき 
 ほしがるものだけが岩石隊長だ
 

吉沢さんへの出頭要請の理由は2つ。1つ目は警戒区域内へジャーナリストを入れたこと。2つ目は、浪江町が発行する許可証だけで警戒区域内の他の町を通行したこと。
1つ目の理由に基づく出頭要請は、世の人々に真実を伝えようとする行為に対する出頭要請と云うべきで、すなわち警察は、真実を知りたいと願う国民と世界のすべての人々に対して出頭要請を行っているに等しい。
2つ目の理由については、警察は自己矛盾を犯しています。現在までに、警戒区域の北側に位置する浪江町の許可証だけを取得して区域へ立ち入り、帰りに南側の楢葉町から出て行く、というルートを取ることについて、検問で警察から咎められたことは一度としてありません。
浪江町から楢葉町まで通過するには、その間双葉町大熊町富岡町と3つの町を経なければなりません。検問通過のために楢葉町の許可まで取るとしたら、結局浪江町を含めて5つの町から許可証を取得しなければなりませんが、そんなことをやってる車はおそらく一台もないでしょう(あれば教えてほしいものです。万が一そんな異常な車があったとしても、その車の持ち主が許可証コレクターだというだけのことです)。

吉沢岩石隊長に対する出頭要請は、真実を知りたいと願う例えば僕に対する出頭要請だし、真実に沿って生きたいと願うあなたに対する出頭要請だということを、僕は感じます。
僕たちが心から真実を知りたいと願い、真実に沿ってものを考え、真実に沿って生きて行きたいと願うならば、ひとり吉沢さんを岩石隊長に押しやっていてはいけなくて、僕たちそれぞれが、ひとりの岩石隊長でなければなりません。連帯用意!
                                                    敬具

 
 ※希望の牧場のウシと電柱 

     
平成壬辰 神無月晦日
宍戸 大裕