Kさん、つどい、映画のこと

知人のイラストレーター・Kさんが他界した。知人と言っては他人行儀にすぎるのだけど、友人というには親より年上で、同志とか先輩というのともちがっていていきおいそんな他人行儀な呼び方しか見つけられずにいる。いっそいつものようにお名前で呼んでみたらいいのだけれど。
Kさん。「資料がたまったから送るね~」と、Kさんはご自身が読み終えたものの中から創作のヒントになるようなもの、それは新聞記事や雑誌、本だったりなのだが、段ボールひと箱にびっしり詰め込んで多い時には月に2度3度と送ってくれるのだった。

僕がお手伝いしていた動物愛護団体が子猫の里親を探していた時、引き取り手になってくれたことがきっかけとなって今日までおつきあいがつづいていた。いつも元気いっぱいで、何かと気にかけてくれる。「あなた、ひどいのよ~」という言葉ではじまる電話の声は、世の中に起こるありとあらゆるひどいこと、たとえば駅前の大きな木が道路拡張のために切られることや森が削られていく話、街に出てきてしまったクマたちの苦境、日本政治の反動化にいたるまで尽きることがなかった。イラストレーターとして若い頃からご活躍されていながら(カエルのケロちゃん、コロちゃんもその方の手になる作品だ)同時にアクティビストとしても動きつづけてこられ、文字通り休む間もなく野良猫の保護や環境問題全般へのアクションに取り組まれていた。70歳を優に超えていたようだけど、老け込むことはまるでなく、ご自身の個展や作品発表の場でも署名集めをしては、来客した方へ熱心に説明(というか説得)をされていた。真っすぐなのだ。

7年前に、今はもう無くなってしまった渋谷の映画館アップリンクで「風は生きよという」の上映があった折、海老原宏美さんとのトークがあった回を観に来てくださり、その帰り道3人で薩摩料理のお店へ入ってお昼をご一緒したことがあった。話したことはすっかり忘れてしまったけれど「すてきね~」と海老原さんを褒めちぎっていたことだけが頭に残っていて、ひどいと思うこととすてきと思うことの線がわかりやすくて、いつも微笑ましくなるのだった。

共通の知人からその報せを受けたのは、先月だった。Kさんはおひとりで暮らしていたこともあってか、遠方に暮らす弟さんがお分かりになる限りで訃報を出されたらしく、僕は漏れていて、知人を介して事を知ったのは亡くなって2か月以上もすぎた先々週だった。暑い9月のこと、親しいご友人が見つけてくれたそうで亡くなる2、3日前にも一緒だったというその方によると、どこも変わったところもなく元気だったという。Kさんにも突然だったのだろうか。家に残された猫4匹は仲間内で引き取られたとも聞き、心配のひとつがちいさな安堵へとかわった。
先週、金聖雄監督の映画「アリランラプソディ」の試写会を渋谷で拝見した帰り道、スクリーンに映されたハルモニたちの生きてきた道行きを思い、ぐるぐる思いを巡らせ歩いているとあの薩摩料理の店、この辺りにあったっけと思いあたった。それらしいビルに店を探したけれど、もうどこにも見当たらなかった。
アリランラプソディ」は来週土曜日の16日から川崎市アートセンターで先行上映が始まり、2月から新宿ケイズシネマで公開される。おなじく16日、僕は「海老原宏美基金のつどい」のスタッフとして、立川女性センター・アイムホールにいる。
金さんの映画の中にも、きっともう会うことの叶わなくなった方がいるのだろうし、海老原さんもKさんも、もう体温のあるかたちで会うことはかなわない。若い頃は死ねばただ終わりなのだと思っていたけれど、そうでないかもしれないとも思うようになっている。どう「そうでない」のかは今もわからないけれど、わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です、という宮澤賢治の掴み方がうなずかれるようになっている。
12月24日、海老原さんは3回忌を迎える。けれど「終わり」どころかこうして海老原さんに動かされつづける自分がいて、渋谷のビルの5階あたりで薩摩料理をほおばりながら海老原さんとKさんと笑いあった日、窓の下に道行く人を眺めた記憶がふわりと浮かんでくる。

16日のつどいの案内をと思って書きはじめたけれど、本題に入るまでの話が長くなってしまう。そういえば、そういえば、という話が増えていく。ここに生きているから。
つどいの第1部、市川沙央さんと荒井裕樹さんのご対談は撮影に行き、テロップをつけるための編集もしたので通しで4回も観ているけれど、いつも同じところでグッときてしまう話がある。予告編にもすこしだけ紹介している、市川さんが障害のあるお姉さまの話をされるところですが、詳細はぜひ会場で(もしくはアーカイブで)ご覧ください。そして会場で行う第2部には、参議院議員の木村英子さんをお招きしています。本基金共同代表である岡部宏生さん、それに運営委員も加わったトークで、聴きどころ満載の1日です。
ご登壇される方に会いに、そして海老原さんに会いにいらしてください。
ご来場をお待ちしています。
そしておなじく16日に始まる映画「アリランラプソディ」に、ハルモニたちの人生に出会ってほしいと、心から願います。

 

             


※ 「つどい」申込先 

https://ebi-kotobanotikara.peatix.com


※ 予告編 

www.youtube.com


※ 映画「アリランラプソディ」HP 

arirangrhapsody.com