逃げこむ先の古本屋

拝啓
ここのところ、「動物たちの大震災」を再構成し再編集する作業に取り組んでいます。取材した映像を見返しながら、どうしたものか、どうしたものかと、机の前に頭を両手で抱えてみたり、立ち上がってうろうろ部屋を歩いてみたり、雲間に春の日差しを見つければ掛け布団だけ干してみたりとしながら、また椅子へ戻って、どうしたものかどうしたものかを繰り返しています。
これがあんまり度を越すと、どうにもこうにも袋小路。そんな時、私が逃げこむのは街の古本屋さんです。仙台には幾つか良い古本屋がありまして、私の逃げこむ得意先にしているのが、家から車で10分ほどのところにある「萬葉堂書店・鈎取店」(http://www.geocities.jp/manyodoshoten/)や、仙台駅から歩いて15分ほどのところにある「火星の庭」(http://www.kaseinoniwa.com/)です。
両店とも人気店で、火星の庭の店主さんは著作も出されています。一昨日の月曜日に逃げこんだ際には中野重治の『本と付きあう法』(ちくま文庫)が200円という安値で売っていて、嬉しくなってすぐに購めました。

大学や専門学校も多い仙台ですが、学生街にある古本屋ではあまり学生の姿を見かけることはありません。学生に限らず人と行き会うこと自体がほとんどないのです。一方では、大型チェーンの古本屋は元気一杯です。仙台だけの話でなく、こうした大型店ばかりが目立った街になるようなことは、寂しいとか、残念とかいうことではなく、避けるべきこと、という風に私は思います。大型店の本棚には決して並ばず、街の古本屋さんの本棚には並びつづけている、きっと長い間売れ残ったままここにあるんだろうなあと感じさせる本が、ただ「売れない」というひとつの理由だけでその街から消えてしまうことは、どうしたってつまらないことです。
大型店には逃げこめないが、街の古本屋さんには逃げこめる。それからしたって、街の古本屋さんを応援しなけりゃなりません。

                                                     敬具

平成壬辰 如月十五日
宍戸 大裕