伊豆沼かりがねに想う

拝啓
一昨日の夕方、宮城県登米市にある伊豆沼を初めて訪れました。道中、沼へ近づくに連れて稲刈りの終わった水田に無数の鳥たちが落穂を食んでいる姿が目に入り、感激しました。サンクチュアリセンター・淡水魚館(http://www7.ocn.ne.jp/~izunuma/top/topmenu.html)の2階には伊豆沼に生息している鳥たちの写真と説明があり、その中で「カリガネ」とあるのに目が留まり、ひとつの歌を思い出しました。それは、

   故郷の空をし行かばたらちねに身のあらましを告げよかりがね

というものです。村上一郎がその著書『志気と感傷』(国文社)の中で紹介している桜田十八士の一人、水戸の蓮田市五郎(1833〜1861年)が詠んだ辞世の歌です。私は今まで、「かりがね」は鳥のことだと思っていましたが、調べてみると、「かりがね」は「かり」(雁)とは別の鳥で、かりに比べるとそれほど多くは日本へ渡来していないようでした。そうすると、蓮田がここで歌った「かりがね」は「雁の鳴き声」としての「かりがね」(雁が音)であったのかもしれません。

「雁」は秋の季語であり、私が好んで読む野村秋介さんの句集『銀河蒼茫−野村秋介獄中句集』(21世紀書院)の「秋の部」の中にも94句の内8句に「雁」という言葉が採られています。8句の内では「雁啼くやはがきの表裏母の文字」が一番良いと思います。蓮田の歌にある「故郷」や「たらちね」、野村さんの句にある「母」など、雁という鳥からは何か懐かしく、あたたかいものを感じさせられます。

      

さて、サンクチュアリセンターには何故かお巡りさんが駐在していて、帰り際に話し掛けてみたところ、現在10万羽近い鳥たちが沼へ渡来しているということ、そして11月20日頃までが一番多く鳥たちを見ることが出来る時期であるということを教えて下さいました。また、明け方に鳥たちが飛び立つ時の羽音と鳴き声は壮観であるということも。私がいたのは夕方のわずか1時間余りでしたが、それでも水田から沼へと帰ってくる鳥たちが夕空一面に広がる光景に、圧倒されました。

ちなみに、伊豆沼・内沼周辺の放射線測定結果が定期的に発表されています。(http://www7.ocn.ne.jp/~izunuma/radiation/radiation.html
これによると、昨日の調査では地上10㎝の地点で0.10マイクロシーベルト/時、地上1mの地点では0.09マイクロシーベルト/時とあります。放射能が垂れ流しになっている中、野生生物に与える悪影響が心配です。私も、「動物たちの大震災」として取材を続ける以上、犬や猫や牛といった人との関係で生きる動物たちに限らず、すべての生き物を注視していける目を持ちたいと思います。

                                                     敬具

平成辛卯 霜月十日
宍戸 大裕