平成27年夏の人びと−その弐

昨日の「首相の一日」が、新聞朝刊に載っていた。

【午前】7時41分、官邸。45分、加藤勝信官房副長官。8時54分、国会。9時、衆院平和安全法制特別委員会。

【午後】0時13分、官邸。18分、菅義偉官房長官。6時37分、報道各社のインタビュー。44分、東京・赤坂のそば店「三平」。老川祥一読売新聞グループ本社取締役最高顧問、洋画家の絹谷幸二氏らと食事。8時56分、東京・富ケ谷の自宅。

安全保障関連法案。憲法違反のこの法案を通した夜、それを通した男がメシを食べる相手に選んだのが、日本で最大部数を売り上げている新聞、読売新聞の最高顧問だったということ。そばをすすりながら、どんな会話を交わしたのだろう。笑うこともあったのかな。

僕は昨夜、編集を18時に切り上げて国会に向かった。19時過ぎに国会議事堂正門前に着いてから、終電までサイレントデモに徹して立っていた。
制服の警視庁機動隊員は朴訥な顔立ちでまだあどけない人がたくさんいた。うしろに控えてにらみを利かせているワイシャツに黒ズボンのおじさんたちは、人相が悪かった。若い機動隊員にとってはデモの参加者よりもこっちのおじさんの方がずっと怖いだろう。同情した。

時々そのワイシャツのおじさんがふたり肩寄せあって、シュプレヒコールをあげているスピーカーの顔と、手元の紙の資料を交互に見ながら、「あいつだな」と呟いてうなずきあったりしていた。
スピーカーはまだ学生だ。活動家、というのではないだろう。その学生を指して「あいつだな」はないだろう、と思った。

機動隊員はみんな時計をしていた。その時計のバンドがどれもゴム製だった。ゴムっていうのか、Gショックとかのあの素材。もみ合いになった時に怪我をしない(させない)ためなのかな、と興味深かった。

参加者の多くはスピーカーの方を向いていたけど、僕はずっと議事堂の方を向いていた。ひと言も声を出さずに議事堂を見ていた。通り過ぎていく車の中の人を見ていると、一心に化粧をしてる女性とか、冷めた目で一瞥くれるだけのおじさんとかが、結構いた。ちょっと歩いて駅に行けば、もう普通の生活者たちがほとんどだ。このなかにも、法案に賛成している人がたくさんいるんだろうなと思うと、その人たちにどう呼びかけたらいいのか、そういうことを考えてた。

抑止力なんて大嘘だ。憲法よりも安全第一、なんて平気で言っちゃう人もいる。憲法のなんたるかをそもそも知らないのだろう。法案の説明が十分でないと思っている国民が8割以上いるのに、法案に賛成する人が3割以上いる。ということは、説明が十分ではないけど賛成するっていう人が少なからずいるのだろう。何故だろう。わからないことが多すぎて、それをわかりたくて国会前に行った。

無関心は仕方ない、とも思う。メシを食べること、あしたの寝場所を確保すること、きょうの仕事を終えること、そっちの方が国会の議論よりもはるかに優先される。比較にすらならないかもしれない。
でもここや、そこで、あまたなされているデモにそれでも意味があるとしたら、

 −なんかデモしてる人がいた

という記憶の痕跡を道行く人に残すことにあるのだと、そう思う。記憶はどこかに蓄積されていく。その蓄積の先に「いまの政治、なんかちょっとヘン」という意識の変化が生れてくるのだろう。

昨夜の23時。永田町駅自動販売機、階段降りてすぐのところは売切れ続出。プラットフォームまで行くとスポーツドリンクのみ売切れていた。この時間、首相はもう自宅にいたんだと今朝知った。

 

 

 
プラットフォームの自販機までもが売り切れるようになったら、面白い。それでも真夏は熱中症が心配です。参加される方には飲み物持参をおすすめします。
平成27年、国民の夏。まだはじまったばかり。

平成乙未 文月十六日
宍戸 大裕