しずかなにぎやかさ

3ヶ月ぶりに書きます。浦島太郎のような気持ちです。
10月1日、2日の2日間。宮城県大和町吉岡宿で初めて開催するドキュメンタリー映画際、「吉岡宿にしぴりかの映画祭」が開かれました。
ぼくも実行委員の一人として、準備から関わらせてもらい当日を迎えました。満席になっても40席、というちいさな会場はふだんは障害のある人の絵画や織りを展示するスペース「にしぴりかの美術館」です。隣り合った場所には安く、美味しく食事ができる「街の喫茶店」があります。ここには「注文を受けてから〜分以内に提供する」、なんてマニュアルはないので、頼んだ料理や飲みものがゆっくり出てきます。だからいただく方もゆっくり食事します。

ふしぎに居心地よいこの場所があるのは、宮城県の北の方。仙台から車で1時間。
店が居並びビルが林立、人が行き交う大都会ではありません。むしろその逆をイメージしてみると、丁度寸法があってくるだろう場所です。
そんなところで映画祭をやって、人が来るのかしら。来てくれるのかしら。実行委員が、当日朝までみな案じていたのは、そのことでした。
開場の10時、そんな不安をカラッと消してくれるように美術館の前にはお客さんが並んでくれていました。感激・・・。でも、その感激に浸ってる時間はない。10時半の上映にあわせてあわただしく動き回りました。

1日目のプログラムは、
1.『ちづる』(製作:池谷薫/監督:赤崎正和/2011年/79分)
2.『もっこす元気な愛』(製作:馬垣安芳/監督:寺田靖範/2005年/86分)
3.『Start Line』(製作:Studio AYA/監督:今村彩子/2016年/112分)
2日目のプログラムは
4.『DOG LEGS』(製作:Invincible Heart LLC/監督:ヒース・カズンズ/2015年/89分)
5.『破片のきらめき』(製作:心の杖として鏡として制作委員会/監督:高橋愼二/2008年/80分)
6.『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(製作:Midnight Call Production/監督:太田信吾/2013年/121分)

この中でも、ぼくに印象深く残ったのは監督の今村さんがいらしてくれた「Start Line」の上映と、中でもその後のトークの時でした。東北初公開の映画で、しかも世に知られた今村さんの新作。満席40席では溢れかえり、美術館の2階に第二会場をつくり対応しました。こんなこともあろうかと、上映素材もスクリーンもプロジェクターもスピーカーもプレーヤーも、2つずつ用意していた実行委員会です。準備がいいでしょう?

聴覚障害がある方がたくさん見えたので、字幕が見やすいようにと、より広い空間が取れる2階の第二会場へ障害のある方を誘導しました。1階に40名あまり、2階に30名あまりのお客さんが入ってくれて、ぼくは2階を担当。今村さんも最後まで一緒にご覧になってくださいました。そして上映後、1階の喫茶店を急遽、トーク会場にセッティングしている間、2階のお客さんへ向けて今村さんに挨拶してもらうことにしました。30名あまりのお客さんの7割〜8割が、手話を使う方でした。そして今村さんが手話でご挨拶をはじめたその時、一斉にお客さんが「拍手」をしたのです。手話によって。それはぼくがふだん聞きなれている、「パチパチパチ」という拍手の仕方、音ではなくて、両手を体の横で上に向け、ふるふるふる、と揺らす仕方でした。
手話の、拍手。
そのしずかなにぎわいを、舞台正面の今村さんの横で体感しながら、ぼくは知らない世界に踏み込んだ興奮を感じていました。おー!みんなが黙ってふるふるしてる!
いえ、「黙って」なんかないんです。実にそれは、「雄弁」なのです。ふるふるふる、ざわざわざわ。一斉に、拍手をしているのです。
手話という言語を知らないぼくは、すっかり疎外感を味わったのです。でもそれは、寂しさを覚えるものではありませんでした。豊かな言語や文化をもつコミュニティにめぐりあった時の言い知れぬ興味津々。疎外感は、言語を知らないことについてのそれであって、興味津々は止まらない。「いいぞー!」という声援が、ふるふると空気を伝ってやってくる感じ。



※撮影は、実行委員会のおひとり土屋聡さんによるものです。

このしずかなにぎやかさは、ぼくに感激でした。手話を習いたいと思いました。習う前にひとつ、「拍手」を覚えたので、ときどき折を見て使ってしまうことにします。覚えたことはどんどん使っていかないと忘れてしまうし、道聴塗説という軽薄は、ぼくの本来でもあるのですから。