動物たちへの政治家の態度について(質疑応答から)

拝啓
前回に引き続き、動物たちへの政治家の態度について考えたいと思います。
昨年3月から12月までに行われた国会における議論の中で、被災動物への災害対応を問うた質問の白眉を挙げるとすれば、11月9日に衆議院予算委員会で行われた石破茂議員(自民党)の質問が第一に挙げられると思います。

石破氏は、警戒区域内に取り残された牛などの家畜動物が凄惨な状況に追い込まれていることについて、鹿野道彦農水相枝野幸男経産相に対して質問を行いました。
その中で「動物愛護法44条の2」にある、「愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行つた者は、50万円以下の罰金に処する。」という一文と、「総理府告示:産業動物の飼養及び保管に関する基準(昭和62年10月9日)」にある、「管理者は、地震、火災等の非常災害が発生したときは、速やかに産業動物を保護し、及び産業動物による事故の防止に努めること。」という一文を挙げ、次のように問います。

  「つまり、国が立ち入りを禁止することによってこの保管者の義務を果たすことができない
   とするならば、入ってはならないと言った政府がこの義務をかわって負うということにな
   るのが法律の考え方としては当然じゃないですか。」

拍案、快哉を叫びたくなる指摘です。これに対し枝野経産相は答弁に立ち、総理府告示に基づいた石破氏の指摘について直接は答えず、告示より上位に位置すると考えられる、動物愛護法44条の2について答弁します。

  「警戒区域等を設定した初期の段階においては、まずは人命、人に対する健康を守るという
   ことに全面的に徹せざるを得ない状況の中で、動物に対する対応が十分ではなかった。
   それは、愛護法の関係でいえば、みだりにというところとの関係で、人命、人の健康を守
   るという措置のためにやむを得ない措置であったということで解釈されるものというふう
   に思っております。」

44条の2では、給餌又は給水を「みだりに」やめることを禁じています。「みだりに」という言葉を広辞苑第二版に引いてみると、「むやみに。やたらに。わけもなく。思慮もなく」などの意味が並びます。枝野経産相は、警戒区域を設定した結果動物たちへの給餌・給水がストップしてしまったことについて、それは愛護法が禁ずる「みだりに」やめたものではなく、「人命、人の健康を守るという措置のためにやむを得ない措置であった」と結論します。そしてまた、率直に次のようにも答えます。

  「今回の原子力発電所事故以降の対応について、こうした大きな事故についての準備ができ
   ていなかったということの結果として、特に周辺地域の住民の皆さん、そしてそこにいた
   動物も含めて、十分な対応が、当事者の皆さんから、至らない点が多々あったことは間違
   いない。それも大変申しわけなく思っております。」

枝野経産相は率直な反省の弁を述べてはいますが、それでもなお、警戒区域内に残された動物たちが給餌・給水を止められ凄惨な結果を生んだ措置について、「やむを得ない措置であった」と云うことを、この反省の弁と併せて見た時、どういう風に考えて良いのか、反省が空転してはいないか、怪訝に耐えないのです。
「やむを得ない」という言葉を同じく広辞苑で引くと、「致し方がない。しかたがない」と出ます。さらに「しかたがない」を引いてみると「手段・方法がない」の意とあります。つまり、動物たちの凄惨な状況を生んだ措置は、それ以外に手段・方法のない措置だったということになってしまいます。大臣の印綬を帯びた人がそんなに簡単に「やむを得ない」などと云って良いものか、憮然たる思いに襲われます。

飢えや渇きの果てに死んで行った動物たちの残した、文字通り酸鼻を極めた匂いや、声や、姿を、「やむを得ない」の一語に収斂され片付けられてしまうことは、到底肯んじがたい。その肯んじがたさを、余すことなくカメラに叩きつけなければならない。そんなことを考えています。

                                                       敬具

平成壬辰 睦月二十七日
宍戸 大裕