2本の映画

公開中の2本の映画にコメントを書かせて頂きました。
「東京干潟」(村上浩康監督)と「アリ地獄天国」(土屋トカチ監督)という作品です。村上さんは同郷の先輩、土屋さんは学生時代から映画を教えて下さった先輩です。こういうと先輩に対して追従コメントを書くのだと思われるかもしれませんがそんなことは出来ませんし、しません。

「東京干潟」、ふるえました。映画に出てくるおじいさんが僕自身と重なりました。併せてつくられた「蟹の惑星」には、干潟の生きもの蟹を友とし、同じ地平に並んで呼吸している村上さんの姿勢があふれ出ていて、感銘しました。
「アリ地獄天国」、しびれました。僕は土屋監督の前作「フツーの仕事がしたい」に多大な影響を受けある労働組合の専従職を求めたことがあります(働いた経験も無いのに専従職は無理でしょ、と結果は不採用でした)。土屋さんの激しさと繊細さが同居している人間性と、映像への真摯な姿勢に僕は学生時代から範を仰ぐ思いでいました。今作のエンドロール、「企画」に土屋さんの名前と亡き親友「山ちゃん」さんの名前が流れてくるのに気づき、ふたりが幽明境を異にしながらもスクラムを組んで製作してきた日々を垣間見る思いがしました。
稚拙なコメントですが、多くの方に観ていただきたい映画なのでご紹介します。

 

「東京干潟」(村上浩康監督)
https://higata.tokyo/

ひとりのおじいさんが多摩川へ歩きだす。干潟に膝をつきしゃがみ込む。素手を泥へと潜らせ、かき出す。祈るような両手の指の合間にしじみを探す。しじみは日銭になり、めしにかわり、レモンサワーとなり、身を寄せ合う猫たちのエサになる。かつて古老がいた。思い上がりや思慮の浅はかさを戒め、たしなめた。智慧を授け畏れることを教えた。みずからの足元を掘り崩してはならないと。コンクリートビルが立ち、ジェット機が飛び交い、トラックが無数に走る都会の海に、85歳のおじいさんが川と泥へ、きょうもひとりその身を浸す。
コンクリートが川を埋め、しじみが取れない。買い叩かれる。台風がくる。水が小屋までひた迫り満潮と重なった。どうする、どうすればいい。
住処を「土砂」とされ、重機で根こそぎ掘り返される泥から貝の声が聞こえてくる。朝の陽に波立つ川へ、おじいさんは身を浸す。河川敷の小屋で人間に捨てられた猫たちが、きょうもおじいさんの帰りを待っている。「みんなおんなじように生きる権利あるんだよ」。おじいさんの声よ、届け。ひとの心、動かせ。つめたい水に身を浸した、ぬくもりの言葉、この世界に届け。どこまでも届け。

 

※上映予定
ポレポレ東中野(東京)アンコール上映
12月21日(土)~28日(土)
連日
19:00~「東京干潟」
21:00~「蟹の惑星」


「アリ地獄天国」(土屋トカチ監督)
https://www.ari2591059.com/

疲れはてた身体。蓋をした感情。行くしかない。生きるため、仕事に行くしかない。陰惨な職場。殴られる脅される、いじめ抜かれる。でも行くしかない。
息をひそめて生き抜こうとした。でもやっぱり、おかしいだろう。
そうだおかしい。隣を歩いてくれる仲間ができた。声を張る、からだを張る、一歩も引かない仲間たち。頼もしい仲間。そうだ、きょうからもうひとりじゃない。土屋監督も肩を組む。先に逝った仲間も肩を組む。ひとりではたたかえない、だから肩を組む。
仲間がいる。ここにいる。
あなたももうひとりじゃない。きょうからもうひとりじゃない。

 

※上映予定
名古屋シネマスコーレ(愛知)全国最初のロードショー
12月28日(土)12:30~